中之島中央公会堂のエヴァンゲリオン試写会での出来事

　１９９７年、劇場版が公開される前の事。僕は２つのエヴァ関連のイベントに行った。大阪中之島中央公会堂で開催されたエヴァンゲリオン鑑賞会と、神戸ハーバーランドの会場で開催された声優のトークショウだった。どのような経緯でこの二つのイベントのチケットを手に入れたのか良く覚えていないが、トークショウの方はおそらく読売新聞の主催で、ハガキで申し込んだら、運良くチケットが送られてきたのだと思う。

　中央公会堂のイベントは確か昼の３時からだったと思うが、ハッキリとは覚えていない。エヴァンゲリオンの第１話から最終話までの内、十数話をピックアップして一気に上映するというイベントで、テレビ版を見逃して、ビデオで後追いするように鑑賞していた僕は、幾つかのまだ見なていないエヴァの映像を見ることが出来た。と思う。正確には良く覚えていない。ひょっとしたら、その時にはビデオ版で既に全話を見ていたのかも知れないし、まだ最終話まではビデオリリースされていなかったかも知れない。

　中之島中央公会堂は、今は綺麗に改装されているが、９７年頃は外観こそ煌びやかなものの、一歩中に入るとモスグリーンの壁の古ぼけた内装で、年季の入った小学校の体育館を思わせる代物だった。上映前には入り口付近で大人達がエヴァ関連のグッズ、サントラＣＤやその他細々とした物を販売していた。確か初回限定版の特典の付いたサウンドトラックがまだ売りに出されていた。

　僕も人混みの中に交じって、記念に幾つか購入した。エヴァ関連のステッカーだったり、「ネルフへようこそ」と表記されたドア掛けだったり、下敷きだったり、今も大切に保管している。本当にその時に買った物かどうかは覚えていないが、他に買える場所なんてないし、アニメイトに行く習慣はなかったから、多分そこで買ったのだろう。

　綾波レイの巨大ポップも８０００円くらいで売りに出されていた。当時二十歳だった僕にとって、ペラペラのポップが８０００円もするのは高いと感じたけれど、欲しくないわけではなかった。恨めしそうに何度かチラチラ見ていると、気前よくそのポップを買っていった同い年くらいの男性がいた。

　ところが、梱包用の紙袋に、セーラームーンか何かの女の子向けアニメ用の袋を渡されて、周りにいた或る男子グループから「あんな袋でかよ」という感じで軽く嘲笑された。憤慨した男性は、売り子の中年男に、「ちょっとこの袋変えてくれよ」と怒張を込めた声で抗議した。確かに僕も、あの袋で帰路につくのは恥ずかしいな、と思った。そして同時に、一連の出来事を側で見ていて、ポップを購入した男性も気の毒だし、袋を渡した売り子も気の毒に見えた。なぜか自分自身のことのように感じた。

　会場には、本当にいろんな人たちが来ていた。綺麗に身なりを整えた女から小太りのヤンキーまで、本当に様々だった。その頃の僕は、精神的にかなりきつい状態にいたので、本当は余り外には出たくなかったのだけれど、無理をして公会堂まで足を運んだ。そうして充実した数時間を過ごすことが出来た。

　熱気に溢れかえった会場の外に出たとき、空が暗かった。その後のことは良く覚えていない。どんなことを思いながら電車に乗って家に帰ったのか、全く覚えていない。もしその頃インターネットがあれば、当時の様子をｍｉｘｉの日記に書いたり、２ちゃんねるの掲示板に残したりしていたかも知れない。今ヤフーで検索して調べてみたけれど、１０年前の中之島中央公会堂で開催されたエヴァンゲリオン鑑賞会について言及しているサイトは、一つも出てこなかった。

　もうあれから１０年も経ったのかと思うと、時が流れるのは早いと思うのと同時に、この１０年、何かを残してこれたのだろうかという焦りを感じたりする。けれど、あの頃はあれで精一杯だったんだと、改めて思ったりもした。

　そして、当時あの場所に集った知らない人たちは、今どうしているんだろうとも思った。あの日から１０年が経った。２０歳の頃は自分がこれ以上年を取るなんて思いもしなかった。